その事業承継、チョット待った!

金融機関からの薦めで事業承継を考えている方からの質問がありました。

センスの良い店。「自分の店」を持つ憧れというのもあるかと。

社長が高齢で引退を考えているとのことで、その会社で最前線で働いている社員に白羽の矢が立ったわけです。

それを「地域密着」を連呼する某金融機関が間に入っていて、お抱えの税理士を奨めてきたけれどご縁あって僕の所に相談に来てくれたという運びです。

大抵の金融機関にはズブズブに繋がってる税理士がいるもの

税理士は関与先の融資を金融機関に紹介して、金融機関はその税理士に客を紹介する。

よくあるパターンで税理士の営業の王道のひとつです。僕はそのやり方が好きではない(ミスマッチもあるから)のでやりませんけど。

王道ゆえかそれをやっている税理士がほとんど。正攻法ですから否定する気は全くありません。

が、その癒着の度が過ぎると「お前はどっちの味方だ!」となるわけです。

誰がトクなのかを見極める

今回のM&Aは、その会社を従業員に2,000万円で買えというもの。

さて、誰がトクをするのでしょうか?

・会社を売りたい現社長

隠居を決めた。廃業して法人を清算する手間が省けて2,000万円もの大金が手に入る。

・仲介の金融機関

実績と手数料が手に入り、さらに融資した2,000万円の金利まで手に入る。

・法人を買い取る人

「社長」になれるが2,000万円もの借金。借りたお金は会社の買取でゼロになり、会社の未来は自己責任。幼い子供もいれば住宅ローンもある。

・ズブズブの税理士

金融機関からの紹介で、安い金額でデューデリやるというエサを撒いて「顧問税理士」の立場を得て継続収入ゲット(ソフト使用料や保険を売り付けてさらに高収入の見込み)。

さて、

主役であるはずの「法人を買い取る人」だけが旨味を得られるのは未来で、しかも自己責任かつ未確定です。

それ以外の登場人物は契約が成立すればその時点で旨味を得られます。

こんな馬鹿げた話があるか?と。地域密着が口癖の金融機関とその地域で影響力を持つ税理士事務所がグルになって知識を持たなぬ人から搾取しようとしている。

はっきり言ってムカつきます。

希望に目を輝かせている時期社長候補のやる気を削ぐ気は毛頭ありませんが、多額の借金を抱えることになりますし彼にも家族がいるし住宅ローンもあります。

間違いなく人生のターニングポイントになる場面なのに公的な立場にある者が己の私利私欲で話を進めるなど言語道断です。

事業承継で注意したいこと

良い条件だからと契約を急いでくる金融機関のM&A部隊ですが、トクだトクだと言われて流されるのではなく冷静になりたいものです。巨額の負債を抱えることになるので。

彼らは実のところは決算書を見る程度の知識しかありませんので、税金については美味そうな話をしつつも何か質問をすると「詳細は(提携してるズブズブの)税理士でないと分かりません」と言ってはぐらかすばかり。実績欲しさに詰め寄って来ますがどこまでも責任逃れをします。

それで後からうまく行かなかったとしても「(提携してるズブズブの)税理士にデューデリを頼まなかったあなたの落ち度」とか「あなたの努力が足りなかったのでは?」、「担当が変わっていて分からない」…金融機関はそうやって逃げるのがオチです。ずっと面倒見てくれるわけではありません。

他にも、2,000万円で買い取る会社とはどの時点のものなのか?

話が進んで買い取る意思を固めた後で現社長が会社のお金を引き出したり在庫を現金化して懐に入れたりする疑いだってあるわけです(金融機関は全くそれに触れない)。

ざっくりと「決算時点の…」などと言っても先に2,000万円と決めたら、決算までに役員借入金の返済という名目でお金を全て持ち出すことだって出来てしまいます。

多額の借金をして買った会社にお金がない…スタートから資金がショートする悪夢です。

おわりに

例えばM&Aではなく独立開業でその仕事はできないのか?焦らず「雇われ社長」から始められないのか?どのみち勤めている会社が無くなるのなら転職は考えられないか?などなど、選択肢は用意した方が良いでしょう。

決断の期限を示されてもその期限は所詮トクをしたい人たちの都合でしかありません。

チャンスとリスクをよくよく天秤にかけて、未来のビジョンを描けるか、最悪の事態を想定しているか…大きな決断になるからこそ鵜呑みにせず時間をかけて考えましょう。

経営者になることはオススメですが、その手段を誤ったら取り返しがつかなくなりますので。

それが這いつくばって泥水啜って生きてきた私が得た教訓です。