繊細さんと争続(相続)案件

一般的に税理士にとって相続案件は臨時収入であり大きな売上の柱です。

相続に特化した税理士、相続しかやらない税理士というのが増えてきたのがいかに相続税案件をこなす事が重要かを物語っています。

疲れて帰ってきて窓を開けたら雨の柱が!

ただ、僕は積極的に「相続税おまかせ下さい!」とは言っていません。ホームページにも書いているのですが、遺産争いなどが発生した(しそうな)ものはお断りするようにしています。

どんなに生前に懇意にして頂いていても、汗水流すことなくまとまったお金や不動産などの財産が舞い込んでくると知ったら人は豹変します(というケースが多かったです)。

寄り添うことが本当に正しいのか?

僕の性分というのもあるのですが、依頼人にヒアリングをしているとその心境に同情したり寄り添ったりしてしまい、依頼人の味方をしてしまいます。

一見、当たり前なのですが、こと相続となるとご遺族の言い分も大きく影響するもの。

生前に一手に介護を担ってたとか、遺言書があっても遺留分(最低限受け取れる権利)があるはずだ、とか、好きでもないのに面倒見てやったんだから多めに貰えるはずだ!とか。

依頼人に寄り添う事で他の親族が嫌な思いをする結果になったり、その逆もあり…そうなるとご本人の意向や周りの縁者の要望の板挟みになって僕の心が擦り減ってきます…。

今回の案件です。

90歳を越えた夫の後妻さんがステージ4の癌告知を受けたとの事。この後妻さんに実子はおらず夫の長女と養子縁組しています。

この養子縁組は相続税対策という名目ですが、後妻さんは拒否したそうです。しかし、この世代の男性の特徴(超亭主関白)というのもあり養子縁組が成立してしまったそうです。

後妻さんは介護が必要になってきたけど頼れる実子はおらず、ヘルパーさんも毎日来てくれるわけではないので養子縁組した義理の娘に頼らざるを得ません。

お金を払ってお願いしているのですが、義理の娘は実の母でもないのに介護をするのが快く思わず冷たい態度を取ります。

そういう態度だから育ての母でもある後妻さんも快いわけがなく、二人の間に溝が生まれます。

そうなって気付いたそうです。死亡したら義理の娘が法定相続人なので遺産を取られてしまう。ということに。

そこで僕の所に相談がありました。

「義理の娘には1円たりとも渡したくない。心配して駆けつけてくれた姉や姪、親の介護をしてくれた弟に報いたい」と。

遺言書をどうしたら良いかという相談でしたが、依頼人である後妻さんのご意志を汲み取ろうとしたら遺言書だけでは心許ありません。

相続が始まってしまう前に生命保険で受取人を兄弟姉妹や姪にして固有の権利として今のうちからお金の行き先を決めておく方法がありますよと保険代理店を紹介してあげました。

そうこうしてヒアリングを続けていくうちに違和感を感じたのですが、時既に遅し。パンドラの箱を開けてしまいました。

それまで後妻さんの味方のような発言をしていたはずの夫の態度が豹変し、僕と保険マンは追い出されてしまいました。

後妻さんのヒアリングによると、全ての生活費や夫婦の療養費などありとあらゆるお金は後妻さんが貯金を切り崩して払っている(夫の歯の治療で140万円払った等)。夫のお金は「すでに遺言書に書いてしまったから」と言い張って1円も使っていない。保険の話を持ちかけたとたん「まぁ、遺留分の4分の1くらい渡せば円満になるだろう」と言い出した…などなど、後妻さんのご意志に沿った提案をしただけなのですが、夫婦喧嘩が始まり、「妻は体が弱ってるんだ。もう帰ってくれ」と。

すでに作成済の夫の遺言書の内容も聞いていたのですが、住まいの所有権など明らかに後妻さんに不利な内容なのです。

後妻さんのお金はご本人が長年働いて貯めたお金だからご本人が自由に使って当たり前のはずなのに、夫が90歳を越えてなお操作しているような印象を受けました。後妻さんから「私ばかり我慢我慢の人生で…」と聞きいたたまれなくなりました。

おわりに

同業者仲間に聞いてみたら「フラットでいないとダメだよ」と言われてしまいました。

確かに夫を敵に回してしまった感じを受けましたし。「余計な入れ知恵をするな!」と言いたげな表情でした。

子を思う親の気持ちもあろうかと思いますし、実の親でもない人の介護をすることの大変さも分かりますし、依頼主のお気持ちも分かります。それ故にものすごくモヤモヤした気持ちになってしまいました。

良かれと思って一緒に考えていたのに依頼主に寄り添い過ぎると一族に軋轢が生じてしまう。だけどそれを回避するということは依頼主が望まぬ結果となってしまう。そんなもどかしさから自身の力不足や申し訳ない気持ちに襲われます。HSPでもありINFJでもあるのでいつまでも気にしてしまいます…。そういうのもあるので、できもしない依頼を引き受けて迷惑をかけぬよう「君子危うきに近寄らず」を意識しているわけです。

バシバシ保険を売ることができる税理士、相続に特化している税理士って本当にすごいなぁとしみじみ感じ、学ぶことの多い案件でした。

税理士

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