遺言のススメ
「争続」にならないために
先日の無料相談会で立て続けに対応した争続と打って変わって、今日はかねてより遺言作成の話を司法書士と進めていた方の証人となるために公証役場に行ってきました。
90歳ながら自転車で颯爽と現れ、まだまだお元気な方なのですが、いつも「もう充分楽しんだよ」と仰ります。
この方の今の奥様は後妻で、ご本人亡き後のことが心配とのことである程度のことは自筆証書遺言を作られていたのですが、相談されて拝見したらずいぶん穴があるなと。
ご本人の希望通りに事が運ぶよう、司法書士さんに連絡して動いてもらって今日に至ったわけです。
年齢とは裏腹にハキハキと受け答えもできてすんなり終わり、ご本人も「これで安心」とにこやかでした。
危急時遺言という手もある
今はコロナのせいで身内といえど入院中の親族に会う事が制限されていて難しいかもしれませんが、可能であれば。遺言が無いまま旅立たれるよりもマシでしょう。
危急時遺言とは、元気なうちに遺言を作っておくのと違い、読んで字のごとく。
余命いくばくも無く、今すぐ遺言を残さなければならない場合など緊急事態のときの遺言です。
一般的ではありませんが過去に一度ありました。
これは民法第976条に規定されているので詳しくはそちらを。ざっくり言うと、
- 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。
- 口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。
- 遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
- 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
他にも口がきけない、耳が聞こえないといった場合の規定もありますが、こんなところです。
注意点としては、相続に関わる人(利害関係者)やその配偶者、未成年者などは証人になれません。その後の争続リスクを考えると、ある程度公的性の高い立場の人を知り合いに持っておくと良いでしょう。
僕が過去に見たのは、前職の関与先の社長の容体が悪化した時に、副所長が司法書士とその娘を呼び出して駆け付けて、口頭で聞いた遺言を書き留めて…といったものでした。
危急時遺言のリスク
このケースは事業を営んでいた人が遺言者で懇意にしてる税理士や司法書士がいたことからこのようなウルトラC的な遺言を作成しましたが、先日の無料相談会に来られた相談者のようなごくごく一般的なサラリーマン家庭となると税理士や司法書士の知り合いがいない場合もあるでしょう。そうなるとそもそもこういう手段があるという事を知る術がありません。
仮に危急時遺言を作成できたとしても、相続する人たちが納得するとは限りません。
思うように財産が舞い込んでこなかったら「不当だ!」と怒るでしょう。
実際に僕が見たケースでも「財産全てを事業を引き継いだ長男に」という遺言だったので他の兄弟が怒り狂って…以来ほぼ絶縁状態となってしまいました。
身辺整理はお早目に
「終活」という言葉があります。人生の終わりを迎えるにもやはり準備は必要です。
財産の分配はもちろん、葬儀や諸々の手続きは誰がやるのか。いくら一足お先にあっち側に逝くのだとしても、その後ドロ沼の遺産争いというのは気持ちの良いものではありません。たぶん。
生前どんなに仲良しこよしでも、棚ボタで財産が手に入るとなると目の色が変わります。相続する人の配偶者だって「少しでも多く取ってこい!」って思うでしょう。人間だもの。
そうならないためにもお早目に。「遺言」と聞くと日本では死を連想してしまいがちですが、欧米では当たり前のように遺言を準備しているそうです。「財産を残すなら、まず遺言書を残せ」ということわざもあるのだとか。